『 しゃ~ま~た~ぎょ~・にょ~ぞ~ぶ~ 』
何だ?      お経の様な。       ・・・・・・お経です。    『 奢摩他行如象歩 』 。 

 龍樹菩薩が 阿弥陀如来のお徳を讃えられた偈 ( 十二礼 ) によまれてあります。
    ・・・ 如来さまの こころ、 静かに思いめぐらされる事、
                   確かに 確かにである事  象の歩みのごとし ・・・・

 象はあれ程 大きな身体ですから、 踏みつぶす物 気にする事なく ワッシ・・ワッシ と歩きそうなものですが、実は 大変に 注意深く 一歩一歩を進めているんだそうです。
 そうですよね・・・あの重さで うっかり 棘でも踏んだら、 自分で抜けるはずもなく 命とりになりかねません・・

 そんな 象の歩み ( と いうか、それが 偈に喩えとして入っている 面白さが ) が気にいってて。

 『 今度、インドに行くけど お土産 何がいい? 』       『 象。』
 『 タイ土産に なんか リクエストある? 』           『 象。』    『 ・・・ちいさい物で。 』

 って言ってたら、いつの間にか 象たちが ワイワイ。 

 今日も一体 やって来たので、並べながら 『 しゃ~ま~た~・・』 ・・・なぜか 口ずさんでしまいます。

     ドスン!     ドスン!         おっ。     うちの象さんが 帰ってきたな。

 『 表装を教えて下さい。 』   と、以前から言っていた彼が来ました。

今までにも 色んな人が習いに ( 体験に ) 来られてます。    老若男女・国籍種々・・・・・韓国のミン君・パクちゃん、 中国の マ君・テキ君、 松浦女史、 迎田君、 それに 80歳の木村さん。
     教えに行くのと違い、家に来られて・・というのは、一対一なので < 弟子と師匠っ! >って感があります。          ただ技術を教えるだけでなく 色~んな話をしながら ふたりの時間が過ぎていくもので。

 徳川家康の <三方が原>の戦いの話になりました。
武田信玄が 大軍を率いて 悠々と家康の城の前を通り過ぎていきます。    今 戦っても勝ち目は無いので 悔しくても籠城を・・と 進言する家臣らを振り切り、31歳の若さの家康は 戦いを挑み 打って出ます。
         ・・・・結果は 惨敗。    脱糞までして ( わたしでもそうでしょう・・ ) 命カラガラ 城に逃げ帰ります。       その後が さすが家康。      その ぼろぼろ姿で憔悴しきった 幽霊のような自分を 絵師にすぐ 書かせたというのです。     そして、生涯 その絵軸を そばに置いていたとか・・・・。

    『 一時の感情で、 計画なしに 無茶をしては いけない。 』

 自分への戒めの為に たまに開いて見ていたのでしょうか。    

 まっ。       実は私にも そんな 軸があるんよ。 それは、表装始めて 一番最初にひとりで 仕上げた軸。
中身本紙は、人様のものをするなんて とんでもないんで 親父の書なんだけど、これが また。
 今 見たら 裸足で逃げたくなる様な ヒドイ 出来栄え。    やり直すのは 簡単なんだけど、置いとくの。
家康の軸みたいなもんで、自分への 戒めとして。    ・・・だから この 軸も たぶん 一発で見事なものにはならないだろうけど、仕上がったら 置いとこうな。     出来栄え以上に 大事なものになるで。

   ・・・・な~んてね。
本紙に霧吹いて シワとるのに、あんまり 苦労してる姿を見てると 自分の以前の姿が重なって、愛おしくもあり   励ましてやりたくなります。     ・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・これって。

  


  タダ者には見えない 王者の風格、 その名は < クウ >。 ( オス )
仏法の 『 空思想 』 から名づけられたのか、よく 食う からなのか 定かではない。

 お参りに行くと 玄関にて出迎え、仏間まで先導。     お勤め中は、奥ゆかしく 横に離れること 2メートル。
お経の声が止まると 撫でてもらう為 ゆっくり 立ち上がるが、又 お経が始まったため 何事も無かった風を装い 毛づくろい。         今度こそ 終わったかと 確かめながら 一声  『  にゃ~。 』

 いつもの如く 美味しくコーヒーを頂いているお坊さんに 首を押し付け ・・・ 『 撫でてくれよ。 』
少し撫でて コーヒーを飲もうとすると カップを持つ手を押さえ ジッと見つめ上げ ・・・  『 もっと 撫でてくれよ。 』
頭・首・背中・・・順に押し付けながら クルクル 廻る。        おそらく、 帰らないなら 何時間でも お坊さんと遊び、歓迎の接待をし続けるであろう <クウ>。

 帰るお坊さんは 見送りに出た事はない、一度も。
なぜって?          サヨナラ は言いたくないからさ。           そこだけ クールな <クウ >。

西蓮寺十七代住職釈知浩

古書画保存修復師

緑に囲まれた山寺

  春 鳥の声、 夏 蝉の声
   秋 虫の声、 冬 雪の声
 
     ようこそ ようこそ 

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