西蓮寺、門柱横の掲示板。  亡き父が、随分以前に求め据えたものです。
既に色んなお寺にあったのを見て、掲示伝道をしたくて求めたのでしょう。 一か月に一回位、出会った言葉や思うところを筆で書き、張っていました。         当時、あるお寺さんが冗談で (おそらく) 仰いました。

 『 西蓮寺さん。 あんな立派で高価な掲示板を用意されても、なんせ この下を通る人が数人しかいないんでは、勿体ない限りよのお。 はっはっは。 』        父、『 まこと、まこと。 はっはっは。 』

 私は知っています。
 誰が見ようが見まいが、何人見ようが見まいが それとは関係無く、自分の勤めとして書きたかった父の思いを。

そういえば、亡くなる数年前 こんな話をしていました。
 ある時、病院の待合室で見知らぬお婆さんに声をかけられたそうです。
『 あの~・・・西蓮寺のご院家さんですかいねえ? 』     『 はい。 』  
   『 ああ。  はじめてお目にかかります、わたし○○の○○と申します。 実はわたし、西蓮寺に伺った事も お寺の前を通った事も無いんですですが・・・・・・。 あの~・・いつも <掲示板> のお言葉を 楽しみにしております。   いつも ありがとうございます。 』     ・・・・『 ・・は? 』

 深々とお辞儀されるお婆さんに 『 来られた事が無いのに・・?』 と、不思議に思い 詳しくお話を聞いて見ると。

 なんと、< 郵便屋さん > でした。
このお寺に来られた時、掲示板の言葉をメモに書き留め、今度 遠く離れたところに住んでおられるお婆さんの家に配達で行かれた時、お婆さんに書いて教えてあげておられたんです。      もう、何年も続いていると・・・。

 

 その話をする父、いつもながら ゆっくり・ゆっくり話しながらも、実に嬉しそうでした。

そうですね。      誰かの為に 『 やってやっている! 』 の思いでするのではなく、自分の為すべき事を 地道に地道に丁寧に為す内に、それが 誰かの < 楽しみ  > や < よろこび > や < ささえ > になっている事ってありますよねえ。   いや、あるんですねえ。   あったんですよ!

 その< 郵便屋さん > と < お婆さん> のやりとりが、如何にして始まったかにも非常に興味がありますが、もう どこの誰やら聞く事は出来ません。

 父が カレンダーの裏に書いた言葉が数枚残っています。 几帳面な父でした。 2枚ばかり写真に撮ってみました。
                            今日は、< 父の日 > です。

 朝5時に出て、西蓮寺に到着・11時すぎ。

さてさて お寺というのは、色々な電話がかかるものです。 先程も・・・
  『 ご住職さまでございますか? 』     『 はい。 』
  『 わたくし、宮崎県の○○でございます。 』   『 はい。 』
  『 今日は、先程仕上がりました <蔵出し焼酎> のご案内で・・。』
       ・・・『 すみません。  わたし、いたって下戸なもので。 失礼いたします。 』   カチャ。

 坊主、ウソをついてしまいました。

あの方は、私がお酒好きと知ってて電話されているんでしょうか?
   九州にまで そんな噂が流れているんでしょうか?       だとすると、あの方。私が ウソ をついたと知ってますね。       そうです。     坊主、ウソをついてしまいました。

 これを見ておられたら ( そんな事ないでしょうが )、申し上げます。

 『 タダなら送って下さって結構です。 』   

    ・・・・・・・・ 坊主、欲深さを あらわしてしまいました。

  

 修復。    中世宗教界の巨人、あの方の書ではないかと言われながら 持ち込まれた一幅。
  ご覧の通り、かなり痛んでいます。 本紙の横折れの部分が100本ではきかないでしょう。

 さてさて、作業開始。  裏から霧を吹いて裏打ち紙( 総裏紙 )を除去。 裏からの第一層を除去すると、以前に修復された時のご苦労の後が・・< 折れ伏せ・折れ止め > 。  オビタダシイ本数です。 折れ痛み1本の裏に 一本入れるのですから、この時 ( おそらく、100年位前 ) 本紙に100本以上の横折れ痛みがあったのでしょう。   < あの方 >の直筆本物だとすると ( そうだという品は何幅か来ましたが、これは どうも そうです。 ) 450年は経っているわけで、その間 一回の修復というのは・・・。  3回は必要でしたねえ。  そうしていると、もっと 良い状態で残っていたはずですが・・。

 それにしても、廻り裂地の状態と見比べて 今の本紙の痛みの原因は、この修複折れ止めが うまく機能していないという事なので、全て撤去します。  半日かけて撤去完了。   本紙の表面の汚れを レーヨン紙にしみ込ませ洗いながら、新しい裏打ち紙で 裏打ち。
 
  折れだらけの時には分りにくかった痛み・破損部分も はっきりしてしてしまいましたが、これが 現状です。  そして、これからが勝負です。

 もう、これ以上痛ませませんよ! 

西蓮寺十七代住職釈知浩

古書画保存修復師

緑に囲まれた山寺

  春 鳥の声、 夏 蝉の声
   秋 虫の声、 冬 雪の声
 
     ようこそ ようこそ 

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