仏さまのお姿。

すごい出来事に出会いました。
昨日、神戸・長田区のお家を訪ねての事。

友人のご住職から 『 門徒さんのお家の仏壇内の 《 御本尊 》 絵像掛け軸、かなり傷んでいるので 修復してほしい。 』 と、連絡を頂いていました。           修復するならどう修復するか、又はするべきかどうかのご相談に伺いますという事で、昨日 夕方ご住職と一緒に参りました。

ご住職のお勤めの後、お軸を外します。             本来なら<35cm×12cm> の大きさの軸が掛るところに<65cm×25cm>と随分大きなお軸が窮屈に掛っておられます。        下を巻きあげ上を折り曲げ・・・。  かなり・・というか非常に傷んでいて触ると パキパキ とこぼれ落ちていきます。    仏壇内の柱に阻まれ、押しつけられた押しピンも外れず 汗をかきます。

やっと外し出されたお軸を見て、驚き。   < お顔 > がありません。 

衣もありません。 裏打ち紙がはずれ絹本がひらひらと浮いており、顔料が粉になって落ちてしまっておられます。 

『 これは・・・・・。 』    ・・・・・ しばしの沈黙。  そして、ご説明を。
①・現状のままで修復は可能である事。  ②・修復しても、お顔・衣が蘇る事はない事。  ③・絵師に依頼して、お顔・衣を描き足してもらう事は可能だという事。  ④・このお仏壇に掛る様に修復するには、絹本絵像を小さくしなくてはならない事。  ⑤・文字が消えているが裏書きが有ることから本願寺から下賦されたお軸であり、三種類の裏打ち和紙から過去2回は修復されたものである事。  ⑥・修復はせず、この度新しく本願寺から本尊絵像軸を頂かれる選択肢もある事。 ( そのほうが、費用がかからない事 )。  ・・・・等々。

おそらく70代の御夫婦、じっと話を聞いて頂きました。  そして、仰った言葉 『 直せるんですか、何年も掛けられる様に。 』    『 直せます。 ・・・このお姿のままでいいんですか? 』   『 これ以上傷む事なく直せるなら、このままで直していただきたいと思います。 お願いします。 』  

阿弥陀如来の本当のお姿は 《 光 》 である。 この色も線も崩れ落ちたお姿を見た時、真っ先に頭に思い浮かんだ事でした。
そして、お顔がどうあれ 衣の美しさがどうあれ、長年にわたり何代にもわたり このご本尊の前に朝晩座ってお参りされてきたであろう事。
親が手を合わせてきた場所を大事にして、親に手を合わせる事を教えてもらった場所を大事にしてきた何代もの歴史があった事。  

ずっと以前のお仏壇はもっと大きかったのでしょう。  お仏壇や仏具は変わっても、御本尊だけは変えずに この御本尊を掛け続けてこられたのでしょう。 

そして、この度も 描き足す事を選ばれず、新しくされる事も選ばれず・・・・・・・。

感銘をうけました。

帰りの車の中で、ご住職と話します。  『 いや~、うれしい出来事に出会わせていただきました。 本尊の姿にも驚きましたが、このまま修復してお参りしたいと仰った事に驚きました。 』   『 いや~、私もうれしいですよ。 もし、要らないと言われれば私が頂くつもりでした。 』  と、笑って仰いました。  

すごい出来事に 出会ってしまいました。  
さて、これからが 少々大変です。   数年前ならこの仕事は受けていなかったと思います。  中々の修復になります。  

いや、必ず 直しきってみせます!

 

西蓮寺十七代住職釈知浩

古書画保存修復師

緑に囲まれた山寺

  春 鳥の声、 夏 蝉の声
   秋 虫の声、 冬 雪の声
 
     ようこそ ようこそ 

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