おじさん、見てますよ。

  もう 4月か・・と思いつつ、京都 寓居アパートのベランダに出て一服。         伏見ですので 造り酒屋が多く、朝は そこかしこから 蒸気が上がっています。

 月桂冠・黄桜・・等 大きな蔵もあれば 規模は小さくても 美味しいお酒を造っておられる蔵もあります。
『 どの蔵の どのお酒が美味しいんですか? 』

 ここに長く ご縁があるので、お客さんに よく 尋ねられます。
『 そうですねえ~・・ お好みですけど、  英勲の斎藤酒造・・神聖の北川酒造・・富翁もいいですねえ~ 』

     などと 言ってる時のわたしは とても楽しそうに見えてるんでしょうねえ。  目は遠くを見つめているかもしれません。    そうそう、酒蔵を改造した 焼き鳥屋さんなんかも 多いんです、この あたり。      夕方 風向きにより いい香りがしてきたりすると ・・・ 辛いです。   『 いいとこに住んでおられますね 』 っていわれますが、良いのか 悪いのか・・。
 
  この写真に 小さく写ってるおじさん わかりますか?
月桂冠旧本社の玄関あたりの <格子> を雑巾で拭き掃除しておられるんですが、見えます?

 毎朝なんです。    毎朝 毎朝 毎朝・・
もう何年になるでしょう?   私が このおじさんに気がついてからでも・・。
随分 木目も白くなってきました。   薬品で洗うのでなく 雑巾絞って 丁寧に丁寧に 拭いてここまで白くされました。    いたって柔らかい水 (あまだれ) が、とても固い石に ポタ・・ポタ・・と落ちるうちに、やがて その石に穴をあけてしまう と聞きます。    

 わたしの、我がの事しか考えられない 狭い所に固まっている頑なな<こころ>が、おおきな <こころ>に触れているうちに、 少しづつですが やがて 解かされていく・・とも お聞きしています。

 おじさん、そんな事思いながら 見ているひとが いるなどと思うはずもなく 拭き続けておられますが。
                            

西蓮寺十七代住職釈知浩

古書画保存修復師

緑に囲まれた山寺

  春 鳥の声、 夏 蝉の声
   秋 虫の声、 冬 雪の声
 
     ようこそ ようこそ 

Copyright © 2010 Sairen-Ji Temple. All rights reserved.